内閣府・食品安全委員会は2022年11月、PFASのリスク評価をするために必要となる文献の選定を一般財団法人・化学物質評価研究機構(CERI)に委託しました。CERIの設けた有識者による検討会は、国内外の文献2969報から、「特にリスク評価への使用が必要とされる文献」として257報を選びました。
その後、食品安全委員会は、傘下のPFASワーキンググループ(座長=姫野誠一郎・昭和大学客員教授)による検討をへて2024年6月、PFASについての「耐容一日摂取量」を初めて定めました。これは、食べものや飲みものを通じて体の中に取り込んでも健康への影響がないとされる値ですが、アメリカと比べて200〜666倍、EUの64倍以上も大きいのです。
これをもとに飲み水の水質基準を「PFOSとPFOAの合計で50ナノグラム」とする手続きが進められました。
欧米と比べて桁違いに大きい値はどのように決められたのか。
こどもなど次世代への影響が本当にないと言えるのか。
私たちは、二つの疑問への答えを探すことにしました。
「耐容一日摂取量」が決められるまでの経緯をまとめた「食品健康影響評価書(評価書)」に掲載された268報の参照論文を、一つずつ読むことからはじめたのです。すると、驚くべき事実が浮かび上がってきました。
PFASワーキンググループは非公式会合を重ね、リスク評価に必要とされた文献のうち7割以上を差し替えていたのです。
食品安全委員会は、理由も含めて、この事実を公表していません。
1.文献の7割以上を差し替え
事前に選ばれた高評価文献【257報】
食品安全委員会のリスク評価に先立ち、CERIが2969報から「特にリスク評価への使用が必要とされる文献」257報を選出。うち最重要文献が165報。
非公式会合で【190報】を除外
ところが非公式会合で最重要文献124報を含む190報を除外。
非公式会合で低評価文献追加【201報】
さらに、非公式会合で低評価文献など201報を追加。うち9報はPFAS製造企業が資金提供をしている文献で、CERIでは不要とされていた。
高評価文献は4分の1に【268報】
CERI文献は257報から67報へ減少。最重要文献は165報から43報へ減少。
2.はずされた最重要文献の例
脂質代謝
usNHANES(米国国民健康栄養調査)の文献
(成人:7,904人対象)2018年
血清PFOAが男性の糖尿病の有病率と成人のコレステロールと強い正の関係があることを示唆した論文。
専門家コメント:検討対象からはずすことは不適切
心血管系
usNHANES(米国国民健康栄養調査)の文献
(成人:10,839人対象)2018年
PFASへの曝露が心臓発作などの心血管疾患と 関連があるとする論文。
専門家コメント:方法と結論が明確であり、リスク評価に極めて重要な論文
腎毒性
usNHANES(米国国民健康栄養調査)の文献
(成人男性8,900人、女性9,270人対象)2021年
PFASが腎機能低下を引き起こした可能性があるとする論文。
専門家コメント:リスク評価検討に使用することが妥当な論文。除外は妥当でない。
生殖毒性
29の研究の統合分析
(32,905人対象)2021年
妊娠中のPFAS曝露は早産、流産、妊娠中毒症リスクに関連があるとする論文。
専門家コメント:リスク評価の際に検討する論文とすることが必須
CERI/食品安全委員会の公表資料
3.健康影響を認めない事例
腎臓がん
関連あり5報、関連なし1報。
しかもその1報は製造企業が資金提供し、かつ低評価Cの論文。なのに結論は「証拠は限定的」。
コレステロールの上昇
関連あり9報、関連なし2報。
高評価な文献を除外した上で、企業が資金提供した低評価の2報を示し、「証拠の質や十分さに課題」と結論。
ワクチン抗体価の低下
関連あり(こども・母子)6報。関連なし(おとな)3報。
「関連なし」の1報は製造企業が資金提供した低評価で、こどもの結果を大人の結果で否定した。
出生体重の低下
関連あり13報。
否定する論文はないのに「影響はまだ不明」と結論づけ。
4.科学的合理性の欠如
文献著者の結論に反する引用
腎臓がんに「関連していた」とある論文を「関連がなかった」と記述。肝臓がんと「関連していた」とある論文を「関連がなかった」と記述。膀胱がんで「特に高曝露地域では最もらしい証拠がある」とある論文を「関連の報告はなかった」と記述。
低評価の論文を採用
適切にデザインされた複数の疫学研究(対象者数、計6万人超)での「関連あり」の結果を、がん患者49人を調べたLow評価(EPA 2024)の1報で否定した。
評価のダブルスタンダード
PFASと健康影響に「関連あり」とする論文は不確実性があると指摘する一方、同じ不確実性を持つ「関連なし」の論文は問題視しない。
客観性が疑われる企業の論文を採用
①選ばれなかった文献からPFAS製造企業の研究論文を9報採用 ②PFASと健康影響は「関連あり」とする研究論文を、PFAS製造企業3Mが資金提供した研究論文で否定した。
まとめ
食品安全委員会と PFAS ワーキンググループによる「リスク評価」は、自ら掲げる「基本姿勢」に反し、科学的合理性を著しく欠いています。リスク評価のやり直しを求めます。
【食品安全委員会の基本姿勢】
利用可能な最新の科学的知見に基づき、科学的判断のもとで適切に、一貫性、公正性、客観性および透明性をもってリスク評価を行い、評価内容を明確に文章化する。
2025年3月の記者会見以降、高木基金PFASプロジェクトでは、評価プロセスの不透明性を解明するため、国会・行政の両面から検証を続けています。
国会質疑:プロセスの密室性が露呈
「PFAS評価書」の文献差し替え問題は、国会の各委員会で10回以上にわたり取り上げられました。国会質疑などを通じて、9回の「公開会合」の裏で、計24回もの「非公開会合」が開催されていた事実が明らかになりました。
- 国会質疑の全記録:衆参・各委員会の質疑応答
- 非公開会合(全24回)開催日時・出席者一覧リスト
情報公開請求:欠落した議事録と「黒塗り」資料
高木基金PFASプロジェクトは、食品安全委員会に対し、非公開会合に関する情報の開示を求めたところ、開示された文書からは以下の重要文書が欠落していました。
- 欠落していた記録: 議事録(全24回分)、重要会合(7回分)の配布資料、座長・事務局間のメール
- 検証結果: 1,000ページを超える開示文書の大半は「黒塗り」でしたが、残された記述と公開議事録を照合した結果、非公開会合の場で実質的なリスク評価が決定されていた疑いが浮き彫りになりました。
食品安全委員会による開示決定は、「議事録やメールの存否が不明確」「具体的な理由のない黒塗り(不開示)は違法」であることなどから、高木基金PFASプロジェクトは行政不服審査法に基づき、内閣府に対し不服申し立てを行いました。2026年現在も、適正な情報開示を求める手続きを継続しています。
透明性を求めるアクションは、順次更新してゆきます。